単元の定義

定義 1 (単元, 可逆元)

  • 単位的環の元が左単元(left unit)または左可逆元(left invertible element)であるとは, となる左逆元が存在することである.

  • 単位的環の元が右単元(right unit)または右可逆元(right invertible element)であるとは, となる右逆元が存在することである.

  • 単位的環の元が左単元かつ右単元であるとき, 単元(unit)または可逆元(invertible element)と呼ぶ.

可換環では左可逆元と右可逆元の区別はない.

命題 2 を単位的環とする. 単元の左逆元と右逆元は一致して, 環内で一意的に定まる.

証明. が単元であるとき, あるが存在してかつが成り立つ. このとき

となるので左逆元と右逆元は一致する. また, の左逆元がであるとすると

となるので左逆元は一意的に定まる. ◻

非可換環では左単元でも右単元とは限らない. 特にが左単元であるが右単元ではない場合, の左逆元は唯一でないどころか無限に存在する場合がある.

例 3 を単位的環としてを左単元であるが右単元ではない元とする. このとき, あるが存在してかつが成り立つ. 整数に対して

と定めるとの相異なる左逆元である.

となるからの左逆元である. またかつが成り立つとする. このとき

となるが両辺に左からをかけると, であることから

さらに両辺に左からをかけるとなので

ここでとなり, 左からをかけることで

を得る. であったのでとなるがこれはと矛盾する. よってならばである.

単元であることの同値な条件

命題 4 (イデアルによる単元の特徴付け) 単位的環の元に対して次が成り立つ.

  • が左単元であることと, であることは同値である.

  • が右単元であることと, であることは同値である.

  • が単元であることと, かつであることは同値である.

証明.

  • が左単元であるとき, あるが存在してが成り立つ. このとき任意のに対してであるからが分かる. 逆にのときであるから, あるが存在してが成り立つ. よっては左単元である.

  • が右単元であるとき, あるが存在してが成り立つ. このとき任意のに対してであるからが分かる. 逆にのときであるから, あるが存在してが成り立つ. よっては右単元である.

    1. 2.より直ちに従う.

命題 5 (極大イデアルによる単元の特徴づけ) 単位的環の元に対して次が成り立つ.

  • が左単元であることと, を含む極大左イデアルが存在しないことは同値である.

  • が右単元であることと, を含む極大右イデアルが存在しないことは同値である.

  • が単元であることと, を含む極大イデアルが存在しないことは同値である.

証明.

  • 対偶を示す. が左単元でないと仮定すると[単元の定義:命題 4]よりである. よってを含む極大左イデアルが存在する. するととなる. 逆にを含む極大左イデアルをとすると, 任意のに対してとなるが, よりである. [単元の定義:命題 4]よりは左単元でない.

  • 対偶を示す. が右単元でないと仮定すると, [単元の定義:命題 4]よりである. よってを含む極大右イデアルが存在する. するととなる. 逆にを含む極大右イデアルをとすると, 任意のに対してとなるが, よりである. [単元の定義:命題 4]よりは右単元でない.

    1. 2.より直ちに従う.

単元に関する基本的な命題

命題 6 を単位的環とする. が冪零元ならばは単元である.

証明. が冪零元なので, ある正の整数に対してが成り立つ. すると

となるのでは単元である. 同様にして

となるのでは単元である. ◻

系 7 を単位的環とする. が単元, が冪零元, ならばは単元である.

証明. は単元なのでが存在する. このときよりとなり, とすると

であるからも冪零元であることが従う. よっては[単元の定義:命題 6]より単元である. すると単元の積として

と表されるのでは単元である. ◻

命題 8 を単位的環, とする. このときが左(または右)単元であることと, が左(または右)単元であることは同値である. 特にが単元であることと, が単元であることは同値である.

証明. まずが左逆元を持ち, が成り立つとする. このときの左逆元はである. 実際,

を入れかえれば, が左単元ならばも左単元であることが分かる.

同様にしてが右逆元を持つとき, の右逆元はであることが分かる.

を入れかえれば, が右単元ならばも右単元であることが分かる. ◻