ここではまず群の定義を行い, 別の同値な定式化についても触れる. そして定義から直接的に導かれる基本的事実について確認する. その中で基本的な記法の導入も行う.

群の定義

定義 1 (群). を集合とする. 以下の条件を満たす組を(group)という.

  • (二項演算の閉性) 上の閉じた二項演算が定まっている(つまりがマグマである).

  • (結合法則) 1.を満たすに対し, 次の結合法則が成り立つ.

  • (左/右単位元の存在) あるが存在して

が成り立つ. このの左単位元(left identity element)(または右単位元(right identity element))という.

  • (左/右逆元の存在) 3.を満たすに対し, 上の閉じた単項演算が定まっていて, 任意のに対し

が成り立つ. このの左逆元(left inverse element)(または右逆元(left inverse element))という.

には単位元が存在するので, は空集合ではないことが定義から従う.

群はの組のことであるが, 後に示すように群において単位元や逆元は一意に定まるのでこれらを省略してと表す. 群は演算との組であるが, 演算が明らかで誤解が生じない場合は単に群と言ったり, 群の演算の記号を省略してと書いたりすることもある.

可除律による群の特徴づけ

群を定義するとき, 単位元の存在と逆元の存在の代わりに次に示す可除律を要請することもできる.

命題 2 (可除律による群の特徴づけ). を空でないマグマとするとき結合法則と左右の可除律

が成り立つならば単位元および逆元が存在する.

証明. 可除律よりに対してあるとなるものが存在する. ここで任意にをとれば再び可除律より

となるが存在する. このとき結合法則を用いて次のようにできる.

特にそれぞれとすればが分かるのでとおけば任意のに対して

が成り立つ. よってこのの単位元である. 逆に単位元と逆元が存在するときは可除律が成り立つこともわかる. ◻

補足 準群(結合法則は成り立たないが可除律が成り立つ)において単位元が存在するとは限らない. 実際次の演算表を持つ準群がある

結合法則が成り立たないことは

からわかる. そしてこの準群は単位元を持たないことも演算表からわかる.

アーベル群の定義

定義 3 (アーベル群). 群において, 任意のが交換法則:

を満たすときをアーベル群(abelian group)または可換群(commutative group)という. アーベル群でない群は非アーベル群(non-abelian group)または非可換群(non-commutative group)という. 特にアーベル群の演算は加法(addition)と呼び, で書くことも多い.

結合法則から従う演算の略記

結合法則によりなのでこれをかっこを省略してとかく. 結合法則が成り立つことから次のような略記がwell-definedであることが従う. を群としてに対し, を正の整数として

のように表す. がアーベル群であるときにも同様の次の略記を用いる.

両側単位元と両側逆元の存在

を空でないマグマで結合法則が成り立つものとするとき, 次の条件を満たすの両側単位元(two-sided identity element)または単に単位元(identity element)という.

また, に対し次の条件を満たすようなの両側逆元(two-sided inverse element)または単に逆元(inverse element)という.

命題 4 (両側単位元と両側逆元の存在). 群に定められた左単位元と左逆元(または右単位元と右逆元)はそれぞれ両側単位元, 両側逆元である.

証明. 左単位元の左逆元が存在すると仮定する. の両辺にを右からかけることで

さらにの左逆元が存在するのでそれをとすれば, を左からかけることで

次に, 今得られたの両辺に右からをかけることで

以上よりの両側単位元であり, の両側逆元である.

右単位元, 右逆元の場合の証明は以下の補足に記す.

補足 右単位元の右逆元が存在すると仮定する. の両辺にを左からかけることで

さらにの右逆元が存在するのでそれをとすれば, を右からかけることで

次に, 今得られたの両辺に左からをかけることで

以上よりは両側単位元であり, の両側逆元である.

これらの事実から, 以降は単位元と言えば両側単位元を指し, 逆元と言えば両側逆元を指すものとする.

単位元, 逆元の一意性

命題 5 (単位元, 逆元の一意性). 群の単位元はただ一つである. 任意のに対する逆元は各に対しただ一つ定まる.

証明. まずをともに単位元とする. すなわち次の二つの式が任意ので成立すると仮定する.

このときが単位元であるという条件においてとすればを得る. 同様にしてが単位元であるという条件においてとすればを得る. 以上より, すなわち単位元がただ一つであることが示された.

次にとしてがともにの逆元であるとすると, 単位元を用いて

が成り立つ. このことから

である. この両辺に(または)をかければ関係式と結合法則を用いて

となる. よって逆元の一意性も示された. ◻

逆元の性質

命題 6 (逆元の性質). を群とする. に対して次が成り立つ.

証明. 単位元の定義においてとすれば

これは自身の逆元であることを表しているので. 次にの逆元であることを示す. 結合律を用いれば次のように計算できる.

よってが成り立つ. の定義式の逆元がであることを表していることから従う. ◻

命題 7 (簡約律). を群とする. このときとして以下の簡約律が成り立つ.

証明. であるとき, 両辺に左から, 右からをそれぞれかけることで, が得られる. ならば両辺に左からをかけることで

が得られる. 同様にであるときも, 両辺に右からをかけることでが得られる. ◻

有限群, 無限群の定義

定義 8 (有限群, 無限群). 群が有限個の元からなるときを有限群(finite group)という. このときの集合としての濃度の位数(order)という. 群が有限群でないときを無限群(infinite group)という.

群の部分集合の積

の部分集合とする. このとき群の演算を用いて部分集合, の積を

と定める. これは再びの部分集合になっている. 特にに対して, と表す.