物質をその反応性によって分類することを考える。例えば水溶液の液性のように、特定の物質との反応性を調べると対照的な2つの性質のいずれかに分類でき、さらに別の基準や見方による分類が共通していたり同じ傾向を持っていたりすることが多くある。こうした反応性による分類のうち、対となる性質を持つ物質同士が結合によって(単に結合したり結合の組み合わせを変えたりして)互いの性質を弱めるという特徴を持つものがある。例に挙げた水溶液の液性はこの特徴に当てはまっている。

酸塩基反応とはこうした分類とそれらの反応を統一的に取り扱おうとする枠組みであり、マクロの共通した性質を生じさせるミクロの共通した構造によって規定される。以下では、まず酸塩基反応の最も基本的な系である水溶液から始まって、様々な系に対して酸塩基の定義を拡張していき、最後にそれら全てに共通する酸塩基反応を特徴づけるミクロな構造によって最も一般的な定義を得る。

水溶液の酸塩基反応

物質を水に溶かしたときのその水溶液の液性(酸性・塩基性)は、それぞれの濃度によって特徴付けられる。そこで、酸・塩基を以下のように定義する。

アレニウスの定義 酸:水溶液中でを放出する物質 塩基:水溶液中でを放出する物質

例えば塩化水素は水に溶けてを放出するため酸に分類される。 () 水酸化ナトリウムはを放出するため塩基に分類される。 しかしこの定義では、アンモニア水溶液が塩基性であるのにアンモニアを塩基に分類できない。そこで、次のように定義を拡張する。

酸:水溶液中でを増やす物質 塩基:水溶液中でを増やす物質

この定義の下ではより、アンモニアは塩基に分類される。

酸と塩基が反応して互いの性質を弱めることを中和という。反応物に酸と塩基が含まれる反応は、広い意味で全て中和反応である。

一方、酸と塩基が完全に反応すると、酸と塩基の性質は消え、中性の水と「酸の陰イオンと塩基の陽イオンからなる物質」が生じる。後者の物質を塩(えん)という。 アレニウスの定義の下では、単に中和反応と言えばこのような完全な中和が起こる反応のみを指すことが多い。

溶液以外についての定義の拡張

はアレニウス酸とアレニウス塩基から中性の物質が生じる反応であるが、溶液中の反応ではないため上の定義では扱えない。しかし、すなわちプロトンの授受に注目することで、こうした溶液以外における反応も酸塩基反応として扱うことができる。その定義が以下である。

ブレンステッド(・ローリー)の定義 酸:を与える物質 塩基:を受け取る物質

この定義においては水溶液の場合と違って絶対的な中性の基準(水)がないため、ある物質が酸であるか塩基であるかは反応ごとによって決まり、酸塩基の度合いは相対的なものとなる。また中性の基準がないため、完全な中和は定義されない。この定義における酸塩基であることを強調して特にブレンステッド酸、ブレンステッド塩基などという。

ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の反応は一般にと表される。このとき逆反応も酸塩基反応となっており、反応式の左辺(正反応の生成物)において酸/塩基だったものが右辺(逆反応の反応物)において塩基/酸となる。これを共役塩基・共役酸という。

この定義ではを含む多くの反応を酸塩基反応として扱える一方で、を含まない反応は扱えないという欠点がある。

一般の溶媒についての定義の拡張

溶媒が水以外の溶液についても酸塩基反応を考えたい。水溶液の液性を特徴づけるはそれぞれ水の自己解離によって生じるイオンである。そこで、次のように定義を拡張できる。

酸:溶媒の自己解離で生じる陽イオンを増やす物質 塩基:溶媒の自己解離で生じる陰イオンを増やす物質

無水系についての定義の拡張

酸化カルシウムと二酸化炭素はそれぞれ水と次のように反応する。 これらを水中で反応させると と中和する。 しかし、水に溶かさなくても直接と反応するので、こうした無水系の反応も酸塩基反応として捉えたい。そこで、次のように定義を拡張できる。

ラックス-フラッドの定義 酸:を受け取る物質 塩基:を与える物質

この定義はに依存していないので、溶融塩電解や地球内部のマントルにおける反応など高温の無水系に適した定義である。

最も一般的な定義

水素イオンや酸化物イオンの授受においても、溶媒の自己解離においても、電子対の授受という共通した機構が働いており、これが本質的な役割を果たしていると考えられる。そこで次のように定義を拡張できる。

ルイスの定義 酸:電子対を受け取る物質 塩基:電子対を与える物質

つまり酸塩基反応とは、一方が持つ電子対をもう一方が受け入れることによって結合したり、この逆の過程によって解離したりする反応のことである。

より広い定義の可能性

ルイスの定義よりも広い定義として、酸を負電荷を持つ粒子(陰イオンや電子など)を受け取る物質、塩基を正電荷を持つ粒子として定義するウサノビッチの定義が提唱されたことがある。しかし、この定義では電子のやりとりによって特徴づけられる酸化還元反応までもが酸塩基反応の一種となり、さらには全ての化学反応が酸塩基反応となる。これではもはや反応性による分類の意味をなしておらず、冒頭に述べたような特徴による分類とはなっていない。よって現在ではルイスの定義が酸塩基反応の最も一般的で本質的な定義として広く受け入れられている。