化学反応は粒子同士の作用なので、その個数が大事である。しかしその粒子は我々からすれば小さくて多いため、数えられない。一方多数の粒子からなる物質の質量であれば測れる。

しかし異なる種類の粒子は異なる質量を持つため、多数の粒子からなるマクロな物質の質量と個数の関係はミクロな粒子あたりの質量によって決まる。

このマクロとミクロを結びつける際に便利のために導入される量と単位が以下で学ぶ物質量とモルである。

質量数

まず、各原子の質量は何によって特徴づけられているだろうか。原子を構成する陽子・中性子・電子のうち、陽子と中性子の質量はほぼ等しく、それに比べ電子は質量が微小であるため、これを基におおよその質量を考えられる。

そこで原子核を構成する陽子と中性子の個数の和を各原子の質量のおおよその尺度とすることができる。これを質量数という。質量欠損や電子の質量があるため、質量数は正確な質量の尺度ではない。※質量数を表すときは元素記号の左肩に添えて表記する。

相対質量(統一原子質量)

異なる種類の粒子がそれぞれどれくらいの質量を持つかを厳密に考えるにあたって、原子の質量を で測るのは非効率的で扱いづらい。そのため、厳密かつ質量数のように扱いやすい単位で質量を測りたい。

そこで の質量のを統一原子質量単位と定め、これによって原子の質量を測ることにする。で測った質量を相対質量、で測った質量を絶対質量と呼ぶ(相対質量も絶対質量も使っている単位を強調するための名称であり、質量であることに変わりはない)。

式量(・原子量・分子量)

相対質量を用いて、異なる種類の粒子がそれぞれどれくらいの質量を持つかを測る。これはある化学式で表される物質の、構成要素あたりの相対質量がいくらかということであり、これを式量と呼ぶ。によって定められる。特に構成要素が原子・分子であるとき、この量をそれぞれ原子量・分子量と呼ぶ。

単位はであり、ある化学式で表される構成要素からなる物質についてが成り立つ。

相対質量の定義から、例えばの原子量は厳密にの原子量はとなる。自然界に存在するには主にこれらつの同位体、つまり中性子の数が違う分質量が異なる粒子が含まれるので、式量の定義からの原子量はの原子量の存在比()による加重平均となる。

ある時、平均的に存在する。)

原子以外の式量については、化学式中の各原子の原子量の総和によって計算できる。

また、空気のように一つの化学式で表せない混合物や、化学式が定まらない高分子化合物についても同様の量を考えることができ、これを平均分子量と呼ぶ。上で見たの原子量の例と同じように存在比による加重平均で計算できる。

物質量・モル(mol)の定義

次に、式量によって多数の粒子からなるマクロな物質の質量と個数の関係がどう決まるか(式量×粒子数=絶対質量)を知る必要がある。

ここで便利のために式量の数値と絶対質量の数値が等しい時の粒子数を考えてみる。を満たすより、と求まる(当然、ある2種類の構成要素の質量比とそれらが同じ粒子数集まった物質の質量比は選択する単位系によらないからこれは構成要素の種類によらない)。このを単位としてと定める。

このことによって、構成要素と同じように構成要素と扱うことができる。×=の両辺をで割ると=を得るが、右辺のあたりの絶対質量をモル質量という。式量とモル質量は等しいことを意味するが、個数あたりの質量がスケールに対して不変であることは、物質が粒子から構成されることから当然の帰結である。この2つの量が次元だけでなく数値についても等しいようにに対してを定義したことで、実用的かつ便利に化学反応の量的関係を考えることができるようになった。

の変換は、より、の乗除によりできる。また、のスケール比を特徴づける数、をアボガドロ数という。このような大きな数字によって特徴づけられるの量というのはイメージしづらいが、例えばの水は、だいたい一口分の量である。

物質量とは個数(物理量)のことであり、は”マクロな”(単位)である。

再定義

上で見た従来の定義では、に依存していたが、に依存する必然性はない。そこで、ミクロな量とマクロな量のスケール比を特徴づけるアボガドロ数を(端数なし)と定めることによってを再定義する。するとの式量は定義値から他の式量と同様の実験値となる。なお、この定義の変更によって生じる式量・モル質量の値の変化は実用上無視できるほど小さなものである。


補足1

一般の教科書ではこれまでに書いたような定義にはなっていない。なぜなら、SIでは個数は無次元量で単位は(つまり独自の単位なし)となっている一方で、物質量は物質量という次元を持ち単位はという扱いになっており、またIUPAC Gold Bookでは相対質量の定義が統一原子質量の数部分となっているからである。これらは物理的に極めて不自然な定義である(理由の詳細は追って別ページにまとめる予定)。本ページはこれら現行の定義への不満を込めて書かれたものである。

また学校の試験など現行の定義に従う必要がある場面では、を書かなければ良い。本ページで定義の気持ちを理解して頭を整理したならば、現行の定義を飲み込んでそれを無矛盾に扱うことは難しくないはずである。

補足2

本ページの定義では、式量とモル質量は用いる単位がミクロかマクロかの違いのみで同じ量であったが、同様に数密度とモル密度、ボルツマン定数と気体定数も同じ量を指すことになる。

補足3

物質量・モル()は中学高校の化学教育の現場で教員も生徒も苦労する部分だと聞く。それは教員のせいでも生徒のせいでもなく、定義が不自然なためである。定義が修正されるのを待つのではなく、積極的に変えていくことができたらと思っているがいかがだろうか? 生徒・学生・教員・研究者などの立場、化学・物理などの分野問わず、意見や感想をいただけると嬉しい。また何か具体的なアクションに協力してくださる方がいればその旨ご連絡いただきたい。