化学結合の基本的なモデルには共有結合とイオン結合があり、実際の結合においては、結合に関わる電子の偏り、すなわち分極によってこれらの中間的なものになることを見た。

ここでは特に共有結合における分極の効果の大きさ、つまり共有結合中のイオン結合性の度合いについて考える。これは原子が共有結合をした時に結合に関与する電子を自分の方へ引きつける度合いであって、イオン結合性による安定化エネルギーの大きさや分極の原因となる力の大きさによって見積もられる。

これを、結合する相手の原子が何であるかという相手との細かいバランスは省いて、各原子に固有の相対的な指標として半定量的に定式化する。

ポーリングの定義

歴史的にはポーリングの定義が電気陰性度の最初の定式化であった。

分極するとそれぞれ正負に帯電するので、その電荷によって引き合い、分極していない場合に比べてイオン結合性を帯びる。このイオン結合性を評価して電気陰性度の尺度とするために、の結合エネルギーの平均をの共有結合性による結合エネルギーと仮定すれば、実際のの結合エネルギーとの差がイオン結合性を反映していると考えられる。こうした考えの下で定められたポーリングの電気陰性度は以下のように表される。

なお、は分子の結合エネルギーである。上式の右辺は分極してが生じることによるエネルギーの増分を表している。このエネルギーは2原子の距離をとしてに比例するが、は原子によらずほぼ一定と仮定すれば、に比例する。よってに比例し、確かに分極の度合い、イオン結合性の指標となっていることが分かる。 これによると、電気陰性度は以下のような値になり、電気陰性度が一番大きいものでもその値はフッ素で4.0となる。

マリケンの定義

自分の電子の取られにくさをイオンエネルギーが、相手の電子の引き付けやすさを電子親和力が反映していると考え、イオン化エネルギーと電子親和力の平均で定義するのがマリケンの電気陰性度であり、以下のように表される。

イオン結合性の度合いをエネルギーに関連させて定義しているという点でポーリングの定義と共通している。

オールレッド・ロコウの定義

また物理的に自然な発想の一つとして、原子の結合半径における表面電場を尺度にとる定義が考えられる。上2つとは対照的で、分極を引き起こす力の大きさを元にした定義である。

別種の原子同士が接近して結合しているとき、それぞれの原子核の電荷の大きさや電子による遮蔽の度合い、結合に関わる最外殻電子までの距離は異なるため、結合に関わる電子がそれぞれの原子から受ける電場の強さも異なる。その結果、電場の強い方に引き付けられ、電子の位置はそれぞれの原子の典型的な結合半径の距離からずれたところで安定する。

そうしてある原子同士が結合した際にどちらにどの程度分極するかという指標を表面電場によって定性的にあらわしたのがオールレッドロコウの電気陰性度の定義である。

そして表面電場を計算するために、典型的な結合距離として共有結合半径を、電荷の大きさとして最外殻電子が感じる原子核の電荷である有効核電荷を用いることで、定式化する。

この前提の下で、原子の表面電場の強さは有効核電荷を共有結合半径の2乗で割ったものに比例し、オールレッド・ロコウの電気陰性度は以下の表式で表される。

電気陰性度は原子同士の相対的な指標なので、比例係数と定数項に物理的な意味はない。これらは上で説明したポーリングの電気陰性度と値が近くなるように設定されたものである。

この定義では上2つの定義とは対照的に、イオン結合性の度合いを力(電場)に関連させて定義している。

電気陰性度の大きさの傾向

電気陰性度の大きさの傾向は、いずれの定義を採っても概ね同じであり、どの定義同士も値には一定の相関がある。エネルギーと力という別の物理量を元にした別の定義を電気陰性度の指標として同じように用いることができることは自明なことではないが、電気陰性度はそもそも半定量的な指標であるし、この意味で物質同士の様々な性質の比較において実際に使える量であると実験上確かめられていることが何より重要である。

原子半径が小さいほど、そして同族元素では有効核電荷が大きいつまり原子番号が大きいほど電気陰性度は大きい。