屈性と細胞の伸長
オーキシンは植物の成長を促進する植物ホルモンである。その作用メカニズムとして酸成長説(酸成長仮説)が考えられている。酸成長説において、オーキシンは細胞壁のセルロース繊維の結合に対して間接的に作用することで伸長を促進する。オーキシンが作用すると細胞膜に存在するプロトンポンプが活性化され、細胞壁中に
オーキシンによる細胞の伸長はジベレリン・エチレンと共に作用する。細胞の長軸方向を縦として、セルロース繊維はジベレリンが作用すると横方向に、エチレンが作用すると縦方向に合成される。オーキシンが作用するとセルロース繊維間の結合が緩み、セルロース繊維に対して垂直方向に広がるため、ジベレリンが作用していた場合は縦方向に伸長し、エチレンが作用していた場合は横方向に細胞が肥大する。
オーキシンによる成長促進作用の感受性は器官によって異なっており、濃度が最適域を超えると成長が抑制されることがある。そのため、茎で成長を促進する濃度のオーキシンでも、根では濃度が過剰になることで成長が抑制される場合がある。
植物には光や重力のような刺激に応じて屈曲する屈性という反応がある。これらの反応の多くは、オーキシンの分布の偏りによって引き起こされる不等成長(差次的成長)が直接的な原因である。
頂芽優勢
シュートの先端にある芽を頂芽、葉と茎の付け根にある芽を側芽または腋芽という。頂芽があるとき側芽の成長が抑制される。この現象を頂芽優勢という。オーキシンは頂芽の成長を促進するとともに、側芽の成長を間接的に抑制することで頂芽優勢を引き起こす。
頂芽優勢は主に糖、オーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンによって制御されている。頂芽は高い糖の要求性があり、オーキシンの働きと糖の供給により成長が促進される。オーキシンが頂芽から下方向に輸送されると、ストリゴラクトンの合成が促進される。ストリゴラクトンは、側芽の成長を促進するサイトカイニンと拮抗して作用し、側芽の成長を制限する。
頂芽を切り取るとオーキシンの供給が低下するため、ストリゴラクトンの合成は促進されず、サイトカイニンによって側芽の成長が促進される。また、頂芽における糖の要求性が解除されることで、腋芽における糖の利用が急速に高まり、腋芽の伸長が開始する。
側根・不定根の発根促進
維管束植物の根系は主根とそこから枝分かれする側根から構成される。側根が形成されると植物は土壌に固着し、水や無機養分の吸収効率が向上する。
シロイヌナズナにおいて、根をオーキシンで処理すると側根形成が促進される一方、オーキシンの極性輸送阻害剤で処理すると側根形成が阻害される。また、オーキシン(インドール酢酸)を過剰に合成する個体では多数の側根が形成され、オーキシン合成経路を欠損している個体では側根数が少なくなる。これらのことから、オーキシンは側根の形成を促進していると考えられている。
不定根とは、本来根が形成されない器官や部位に形成される根である。代表例の一つに、切り取られた茎から形成される根などがある。切断した茎の断面にオーキシン(インドール酪酸:IBA)を与えると、不定根の形成が促進される。
果実の成長促進と成熟への関わり
果実の形成と成熟には植物種によって違いがある。多くの植物で果実の肥大成長にオーキシンとジベレリンが、成熟にエチレンが関わっている。これらの植物では、受精が起きて種子が形成されると、種子でオーキシンが合成され、果実の肥大成長が促進される。その後エチレンが合成されるようになり、果実は成熟する。
オーキシンの応答因子(ARF)はトマトやモモなどの果実成熟の調整に、エチレンの合成・シグナル伝達を促進または抑制することで間接的に関与する。ARFにはいくつか種類があり、種や器官によって関与するARFの種類が異なる。
トマトではオーキシンによって果実の成熟は抑制される。トマトの果実において、ARF2はエチレンの生合成遺伝子と応答遺伝子の発現を正に調整しているが、オーキシンはARF2の発現を抑制するため、エチレンの作用が抑制されることで果実の成熟が遅れると報告されている。
一方、モモやリンゴではオーキシンによって果実の成熟が促進される。モモ果実において、ARF6はエチレン生合成遺伝子のプロモーターに直接結合してその発現を活性化するとともに、EBF1/2と競合することでEIL2/3の活性を維持する働きをもつことが示唆されている。これらの作用によりエチレンの合成および応答が促進され、果実成熟が促進されると報告されている。
※→は促進、ー|は抑制
離層形成の抑制
落葉・落果は葉柄・果柄で、弱い細胞壁からなる離層が形成されることで起こる。離層の形成はエチレンにより促進され、オーキシンにより抑制される。
若く活発な光合成が行われている葉では、葉身→葉柄→茎の極性輸送が保たれているため、葉柄の離層になる部分でオーキシンによってエチレンの感受性が抑えられている。葉が老化するとオーキシンの生成量と輸送量が減り、エチレンの感受性は高まると同時に、エチレンの生成量は増える。それによってエチレンの作用が優位になることで、離層が発達する。