2.1.1 かぐや姫の生い立ち#1

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  • 品詞分解

  • 語釈

  • 文法

  • 読解

本文

①今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。 ②野山に交じりて竹を取りつつ、よろづの事に使ひけり。 ③名をば、さぬきの造みやつことなむ言ひける。 ④その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。 ⑤あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。 ⑥それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。 ⑦翁言ふやう、「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめり」とて、手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ。 ⑧妻の嫗おうなにあづけて養はす。 ⑨うつくしきこと、限りなし。 ⑩いと幼ければ、籠に入れて養ふ。

訳例

①今となっては昔のことだが、竹取の翁というものがいた。 ②野や山に分け入って竹を取っては、いろいろなことに使っていた。 ③名前を、さぬきの造と言った ④その竹の中に、根元が光る竹が一本あった。 ⑤不思議に思って、近寄って見ると、筒の中が光っている。 ⑥それを見ると、三寸ほどの人が、たいそうかわいらしい様子で座っている。 ⑦翁が言うことには、「私が毎朝毎晩見る竹の中にいらっしゃっるので、分かった。子になりなさるはずの人であるようだ」と言って、手のひらに乗せて、家へ持って帰ってきた。 ⑧妻の嫗にまかせて育てさせる。 ⑨かわいらいしいことは、この上ない。 ⑩たいそう幼いので、籠の中に入れて育てる。

品詞分解

  • ①今名は係助昔名、竹取の翁名と格助いふハ四・用者名ありラ変・用けり過・止。

  • ②野山名に格助交じりラ四・用て接助竹名を格助取りラ四・用つつ接助、よろづ名の格助事名に格助使ひハ四・用けり過・止。

  • ③名名を格助ば係助、さぬきの造名と格助なむ係助言ひハ四・用ける過・体。

  • ④そ代の格助竹名の格助中名に格助、もと名光るラ四・体竹名なむ係助一筋名ありラ変・用ける過・体。

  • ⑤あやしがりラ四・用て接助、寄りラ四・用て接助見るマ上一・体に接助、筒名の格助中名光りラ四・用たり存・止。

  • ⑥それ代を格助見れマ上一・已ば接助、三寸名ばかり副助なる断・体人名、いと副うつくしう形シク・用(ウ便)て接助ゐワ上一・用たり存・止。

  • ⑦翁名言ふハ四・体やう名、「我代朝ごと名夕ごと名に格助見るマ上一・体竹名の格助中名に格助おはするサ変・体にて格助知りラ四・用ぬ完・止。子名に格助なりラ四・用給ふハ四・止(補尊)べき当・体人名な断・体(撥便)めり推・止」とて接助、手名に格助うち入れラ下二・用て接助、家名へ格助持ちタ四・用て格助来カ変・用ぬ完・止。

  • ⑧妻名の格助嫗名に格助あづけカ下二・用て接助養はハ四・未す使・止。

  • ⑨うつくしき形シク・体こと名、限りなし形ク・止。

  • ⑩いと副幼けれ形ク・已ば接助、籠名に格助入れラ下二・用て接助養ふハ四・止。

語釈

  • ①今は昔:今となっては昔のことだが 説話や物語文学の書き出しに使われる。「昔々、……」と同じような使われ方。

  • ①竹取の翁 竹取とは、竹を切って様々な道具を作るのを生業とする人。職業としての身分は低かった。

  • ②交じる:(山や野に)分け入る

  • ②よろづ(万):数が多いこと。

  • ③さぬきの造 さるきの造、さかきの造とする説もある。「造」は、大和朝廷時代の姓(かばね)であるが、後に「造まろ」とあるように、ここでは人名としても使われている。

  • ④筋 竹、帯、皮などの細長いものを数えるときの量詞。

  • ⑤あやしがる:不思議に思う 「-がる」は、体言や形容詞・形容動詞の語幹(シク活用形容詞の場合は終止形)について、「~のように思う」などの意味を表す接尾語。

  • ⑥三寸 一寸は約3 cmのことである。「三」という数字は神聖視されており、説話に多く使われる。

  • ⑥うつくし:かわいらしい

  • ⑥ゐる:座っている

  • ⑦言ふやう:(~が)言うことには

  • ⑦朝ごと夕ごと:毎朝毎晩 「-ごと」は、体言や動詞の連体形などについて、「~のたびに」などの意味を表す接尾語。

  • ⑦うち入る:〔他〕入れる、中におさめる 「うち-」は、動詞の上について、「ちょっと」「さっと」「一面に」「すっかり」などの意味を表す接頭語。

  • ⑧嫗(女):年をとった女性

文法

  • ①~ありけり:~があったそうだ 「けり」は伝聞過去(間接的に知った過去の事柄)を表すことが多く、「き」は経験過去(直接経験した過去の事柄)を表すことが多い、とされている。ただし、例外も少なくないため、この区分に懐疑的な見方もある。

  • ②つつ:~しては 接続助詞「つつ」は、①反復・継続「~ては、~し続けて」、②並列「~ながら」の意味がある。ここでは①の意味。何度も何度も、竹を取ってはいろいろなことに使っていた、というのを繰り返していたのである。

  • ③名をば 格助詞「を」に係助詞「は」が付くと、濁音化して「をば」となる。なお、係助詞「は」は主題・取り立て(これから述べようとする事柄を取り立てて、主題・主語として提示する)という意味である。そのため、格助詞で主格の意味を表す「が」「の」とは文法的働きが異なる(現代語の「は」と「が」の違いと同じである)。

  • ③なむ 文中に係助詞「なむ」があると、原則として結びの語は連体形になる(係り結び)。この場合、「けり」が連体形になっている。なお、「なむ」は強意の意味。

  • ⑥見れば 接続助詞「ば」には複数の意味がある。大きく分けると、①順接の仮定条件(未然形接続)、②順接の確定条件(已然形接続)があり、②はさらに、(a)原因・理由「~ので」、(b)偶然条件「~と、~ところ」、(c)恒常条件「~といつも」の3つに分けられる。ここでは②(b)の意味。

  • ⑦知りぬ この文だけを見ると、「知る」の目的語が分からないが、実は直後の文に書かれている。ここでは倒置が起こっているのである。

  • ⑦なめり 「めり」は連体形接続の推量の助動詞。その前に断定の助動詞「なり」がつくと、「なるめり」となるが、撥音便となり「なんめり」と読む。古代では撥音は一音節として認められなかったため、文字では「なめり」と表記された(撥音便の無表記)。

  • ⑩幼ければ この「ば」は順接の確定条件で原因・理由を表す接続助詞である。以後、接続助詞の「ば」については説明を省略する。

読解

誰もが知る昔話「竹取物語」の中でも、とりわけ有名な冒頭の部分である。竹取の翁が突然光っている竹を見つけ、近寄って見てみたところ、小さい女児を発見した。翁は、毎朝毎晩見ている竹の中にいるからと、その子を連れて帰って、家で育てるようになった。 この女児――後にかぐや姫と名付けられるのだが――の小ささは、いろいろな描写から分かる。直接的には、⑥「三寸ばかりなる人」という記述があるのだが、それだけではない。⑦をよく読んでみると、「手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ」とある。語釈に書いた通り、「うち入る」は「中に入れる」という意味であるから、手のひらの中にすっぽり入るほどの小ささ、ということである。また、「持ちて来ぬ」という記述からも、かぐや姫の小ささが良く分かる。本来、人は「連れて帰ってくる」が、ここでは文字通り「”持って”帰ってきた」のである。さらに、⑩では「籠に入れて養ふ」とあり、まるで小鳥のような扱いをされている。 さて、翁は「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になり給ふべき人なめり」と言っているが、これは一見すると無茶苦茶な論理である。しかし、⑩「籠に入れて養ふ」という記述を見ると、翁が言いたいことが少し見えてくる。まず、「籠」という字に「竹」が含まれることから分かる通り、籠は竹から作ることができる。そして、翁は取った竹で道具を作って生計を立てている。さらに、「籠」も「子」も、「こ」と読むことができる。つまり、「子になり給ふべき人なめり」というのは、「毎日竹を取り、籠などを作って生計を立てているが、そのような竹の中で発見した人なのだから、(籠ではなく)子となるはずの人だ」ということである。 ところで、⑦「おはする」「なり給ふ」とあるように、翁はかぐや姫に対して敬語を使っているが、これはなぜだろうか。いろいろな理由が考えられるが、その理由の一つとして、不思議な存在に対する畏敬の念が表れているから、というのが挙げられるだろう。光っている竹の中から三寸ほどの女児が現れるというのは、一般的にはありえないはずである。そのような神秘的な存在に対し、「おはする」「なり給ふ」という表現を使ったのではないだろうか。